犬は気まぐれで何を言う?
それに深い意味はあるの??
+真実の言葉+
視線シリーズ
「あっ、キャプテンだぁ〜。」
彼に耳と尻尾がついていたら大きく振っていたであろう。
その様子が簡単に想像できてしまう自分を少々悲しいと思いながらも、
走り出した藤代を追って笠井も走る。
自分たちはグランドの中央。
キャプテンたちはグランドの入り口。
距離的にはたいしたことないので、
練習前のウォーミングアップと考える事にした。
キャプテンの隣には三上先輩。
いつものポジション。
いつもの光景。
見慣れてるそれは、今では少し苦しく映る。
「おい…うざい。」
走ってくる藤代に向かい足を繰り出す。
心底嫌そうな顔で言うからには、本当にうざいのであろう。
距離があったために、藤代は出てきた足を交わすと
渋沢の前に駆け寄る。
「遅かったですね。」
走ってきた為に高潮したほほと笑顔で藤代は聞く。
三上の存在は完全に無視である。
「ああ。少し委員会が長くてな…。」
まっすぐな視線ににっこりと微笑みながら渋沢は返事を返す。
…視線をさらりとかわすように…。
「そうなんですか。」
気にしない気にしない気にしない。
繰り返し自分に聞き込ませる。
数秒送れてたどり着いた笠井は、
仲良く話している様子を見つつ、ふて腐れている三上をも見る。
「ん?」
見てる事に気づいたのか不機嫌な表情のまま、笠井に話しかける。
「お前も大変だな。」
あの馬鹿犬の飼い主は。
目だけで藤代を指しながら言う。
「はは。慣れてますから…。
つーか、嫌でも慣れました。」
自分は普通に会話できているだろうか。
自問自答しながら笠井は三上と話す。
憧れの先輩がこんな近くに…。
隣に立っているだけで、心臓はどきどきである。
「あー、二人してなに話してるんですか!!」
誠二〜。邪魔しないでよ。
という、心の声は奥へとしまいこむ。
「うるさい犬の会話をな。」
「犬〜。三上先輩もタクも犬なんて飼ってたの?」
気づいてないの…か…?
「ああ。笠井がでっかい犬を飼ってるんだと。
そのデカイ犬は、本来の飼い主の元に居るもんだと話してたんだよ。」
遠まわしな説明だけど、
多分それじゃあ…誠二は気づかないと思います…。
笠井の予想は大正解。
「ふーん。こんど俺にも紹介してね。その犬v」
「…あ…ああ…。」
あの〜そこで気づかないと逆に俺が疲れるのですが…。
「と、言う事で犬はとっとと本来の飼い主のところへ行け。」
手首だけを動かして、しっしのポーズをする。
ここまできたら藤代にもだんだん分かってきたらしい。
「もしかして…犬って俺の事っすか?」
「ほかに誰が居る?」
あっさりと三上に切られ、藤代はむっとなる。
二人っきりになんてさせませんからね。
「じゃあ…飼い主に帰るぅ〜。」
ぎゅと笠井に抱きつく。
毎日のスキンシップなので笠井には慣れっこである。
「重いよ…誠…。」
ビクッと笠井の体が震える。
何?何だ?今の視線は。
一瞬だったけど、寿命が縮んだかも…。
誰?誰の?
つーか、俺…誰かに恨みでも買ってるんすか?
「どしたの?」
「いや…何でも…。
ほら、誠二…キャプテンが呼んでるよ。」
とりあえず引き離さないと…。
ようやく離れた藤代だが、なかなかキャプテンの方へは行こうとしない。
普段なら喜んで駆け出すのに。
「どうかしたの?」
「ん〜タクと三上先輩二人っきりにしたらやばい事が起こりそうで。」
至極真面目な顔で言うもんだから、
一瞬、その台詞にどのような反応をすればよいか分からなかった。
「何が起こるって言うんだ。」
ごつん。
いい音が響いて、三上のこぶしが藤代の頭にヒット。
痛い頭を抑えつつ藤代は続ける。
「だって三上先輩ってタクのこと、変な目で見るんだもん。
乙女のてーそーの危機ってやつですよ」
「誠二…そんな言葉なんで知ってるのさ。っていうか、俺は男だ。」
笠井の反論は怒りを少し織り交ぜて怒鳴りつけていた。
「なんで男になんて手を出さないといけないんだ。
そこまで、飢えてねぇ。」
まるで動揺を隠すみたいに、本気で怒る三上。
圧倒されたのか藤代はそれ以上何も言わなかった。
「でも、俺は嘘は言ってませんからね〜。」
「ほほう〜憎まれ口をたたくのはこの口かぁ?」
いつもの喧嘩を止めたのはいつもの人。
呼んでもなかなか来ない藤代を心配して自分から来たらしい。
三人の様子を少し離れてみながら笠井は一人つぶやく。
「そう…ですよね。」
一瞬自分が誠二の台詞で考えてしまったこと。
もちろん頭の中ですぐ否定。
憧れと恋は違うから。
だが、そんな藤代の台詞をを冗談だとは思わない男が一人。
彼だけは、藤代の鋭さを、言葉は軽く冗談じみているが、
本当は深い意味を持つのかもしれないということを。
気づいたのから…。
それは誰にも言えないけど…。
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