告白されたのはこれが初めてじゃない。
男も女も。
面倒くさい。
scherzando
「ごめん。好きな人が居るんだ。」
この台詞も何回目だろう。
目の前には可愛らしい女の子。
懸命に勇気を振り絞っての告白。
断るのは少しかわいそうだけど。
「そうなんだ。それって片思い?」
「うん。」
一番つらい質問。
泣いてどこかへ行ってくれる方がいい。
それか怒って。
こんな質問をしてくるタイプが一番嫌だ。
「ふーん。」
しつこいな…もう。
いいだろ。
自分を振った男の事なんて。
「…で、しないの?」
「えっ?」
「告白。」
さらりといいきる。
その顔は笑顔になっていた。
「それが、さっきフラレタ相手に言う台詞?」
「だって悔しいじゃない。
これで、もしあなたがふられたら
私にもチャンスがあるってことでしょ?」
…ああ。そういう事か。
笠井はクスッと笑う。
「それでも君に気持ちが傾くと思う?
だって、ふられてもまだ相手を好きなのは
君だけじゃないんだから。」
女の子は少し考え込む。
表情もだんだん悔しそうになっていく。
「そういわれると…そうね。
どうしてサッカー部のエースってこうも皆固いのかしら。」
「そんな事初耳だよ。」
「そう?有名よ。
三上先輩や渋沢先輩筆頭に笠君含む一軍レギュラーが,
かたっぱしから告白した女の子をふっているって。」
本当に初耳なんだけど。
部内の人間関係を知っている身としては、
こんな噂が流れてるかなぁ〜とはなんとなく思ったけど。
でも…。
「三上先輩も含む?」
「うん。含む。」
ちゃんと名指しで言ったじゃないと女の子は少しムッとする。
彼女も噂の中に彼の名前があることは不思議らしい。
「…って、なんで僕達のん気に会話してるんだろうね。」
「さぁ?なんでだろ?
じゃあ…私行くから。」
「うん。」
バイバイとお互い手を振りあう。
さっきまで、告白という深刻な空気は今は微塵ともなかった。
一人になった笠井の上から笑いをこらしたような音が響く。
何事かと見上げた木の上には一人の男の姿。
先ほど出てきた名前-三上亮-本人だった。
「何してるんですか?」
「うん?面白いモンが始まったんで見物を。
俺としては、平手打ちくらうに一票だったんだけどね。」
自分で自分のほほに手を当ててにやりと笑う。
「予想が違って残念ですね。
でも、三上先輩が告白を断り続けてるなんて以外でした。」
「そう?笠井君だってふってるじゃない。
好きな人がるんだ…って。」
声真似まではしなくてもいいです。
心底嫌そうに言うと、
ボスっと軽く腹にブローを落とす。
「で、誰なの?先輩に教えてごらん?」
「えっ、……。」
かぁーと笠井の顔が赤くなる。
そんな事いえませんと、小さく小声でつぶやく。
向かい合ってた目は行き場をなくしたようにさまよい始める。
「それって…。」
俺の事?なんていう台詞は、
笠井自身の口から否定された。
「せ…誠二です…。」
視線は下に本当に小さな声で一言。
「……………。」
ちらりと横目で三上を見れば
そこには固まった情けない男が一人。
こんこんとたたいてみるが微動たりしなかった。
そのまま灰になられても困るので、
はぁとため息をつきながら言う。
「冗談ですよ。
そろそろ戻りましょう。」
ぐいっと手を引っ張る。
「なぁ。」
いつもとは違う真剣な声。
顔も真面目である。
「もし…俺がお前を好きだって言ったらどうする?」
えっ。
空耳?
都合のいい解釈?
「……三上先輩……。」
静かに名前を呼んでみる。
自分を見つめる真剣な目。
「あの…。」
「なーんてな。」
さっきとは全く違う明るい声。
「はい?」
はとが豆鉄砲を食らった表情とは今の自分のことだろう。
「びっくりした?
さっきのお・か・え・しv」
何?今のは冗談なのか?
ドキドキして一瞬喜んだ自分が馬鹿らしい。
そのまま返事をしてしまいそうになった自分が恥ずかしい。
ぱーん!
響くは平手打ちの音。
三上のほほには綺麗な赤いもみじが。
「お望みの結果ですよ。」
にっこりと笑顔一つ。
そのまま背を向けると校舎に向かって歩いていく。
離れてから再び顔に熱がこもるのを実感していた。
たとえ冗談でも、
あんな事言われるなんて思ってなかったから。
「今度してみようかな…。」
玉砕覚悟で告白でも。
ふざけて冗談だったかもしれないけど…
アノ目だけは真剣だったから。
嘘はついていないと語っていたから。
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