雨が降っているのは何も天気が悪いからじゃない。
心の中にだって降るもんなんだよ…。
Even if there are no wings
翼がなくても
「タクゥ。何傘さしてるの?雨やんだよ。」
後ろから聞こえる親友でありルームメイトでもあり、
武蔵森高校サッカー部エースの声。
自分がいる場所は僚の入り口から少しそれた道端。
普通に部屋にいれば見えない位置。
なのに自分に声をかけているということは、部屋から出てきたのだろう。
買い物か?
帰ってこない自分を心配してか?
答えは後者だった。
「こんなところにいつまでもいないでさ。戻ろうよう。」
いつもの明るいテンションではなく少し落ち着いているのは、
この空気を察しているせいだろう。
普段ならこんな風に普通に声をかけてこないし、
(いつもは抱きついてくる)
そばでじっとしていることもない。
「ありがとう。誠二。
でも…もう少しここにいたいんだ。
雨が降り止むまで…。」
「だから、雨降ってないってば。」
少し怒ったように誠二は言う。
「ふってるんだよ…。」
あの人の心の中には。
いろんな雨が。
抱きしめてあげたいけど。
やわらかく包んであげたいけど。
今の自分にはそんな力も勇気もない。
けれども…心は想いでは抱きしめててあげるから。
一人で悲しまないで。
「そっか…。
俺にはよくわかんないけど…。
タクが居たいならこれ以上止めないや。
けど!」
夕飯までには帰ってきてよ。
本日の献立ににんじんがはいってるんだから。
などと彼らしい台詞を言いながら誠二は僚へと戻っていく。
ありがとう。
再び戻る静寂。
空は多少雨雲が残っているが雨が降る確率は低いだろう。
その証拠に少し離れた空には青空が見える。
そのうち赤く染まっていくだろう。
青空の下から歩いてくる人物。
遠目から見てもカッコいい。
高い背とそれに見合う均等な体つき。
顔も仕草も性格-は少し疑問系だけど-も。
ふと顔をあげた彼と目が合う。
驚いた表情。
こちらをみて驚いている。
そりゃそうか。
雨も降ってないのに傘なんてさしてたら。
「何やってんだ?」
当たり前の台詞。
整った顔を少し不思議そうにして。
多少不機嫌の入った表情はいつものこと。
「雨がやむのを待ってるんです。」
「雨ぇ?やんでるんじゃねぇか?」
空を見上げて一言。
「みたいですね。」
にこっと笑うと傘を閉じる。
その瞬間抱きしめられる体。
「つめてぇ。お前いつからいたんだ?」
「さぁ?覚えてません。」
いつから…なんてどうでもいいことだから。
そばにいるでしょ。
あなたは一人じゃないんだから。
「あー。なんかわかったかも。
ありがとな。」
「どーいたしまして。
早く戻りましょ。」
「だな…。」
体は離しても離さない手と手。
それは傍にいていいということですか?
拒絶されてもお願いしますけどね。
今夜は…あたたかい夢をみてください。
翼がなくても軌跡が起こらなくても
あなたは一人じゃないから
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