本日は・・・会談じゃなかったか・・・?
休息の正義
正義と自由シリーズ
頭を抱えながらふと、そんな事を考えてしまうのは当たり前で。
基地の施設内にあるカフェテリアでコーヒーをすすりつつ彼は考える。
目の前には白い軍服に身を包んだ男が一人。
茶色の髪に紫の瞳。
穏やかな表情でココアを飲んでいる。
「だ、から、聞いてる?」
小首を傾げて可愛らしく聞くという傍から見れば可愛らしい行動も
彼にとっては悪魔の行動にしか見えなかった。
「ああ・・・だけどな。キラ。
俺が呼ばれたのは軍の事で緊急があっての事だと思うんだが・・・。」
言っても止まらないだろとは思うけど、一応言ってみる。
「ああ、そんなの嘘☆」
えへvと可愛らしくキラと呼ばれた男は言う。
なんとなく予想もしていた事に、はぁと大きなため息一つ。
「まったくアスランはまじめなんだから☆」
いや。☆マークはいらないだろ・・・。
と、関係ないツッコミを入れつつアスランは頭を抱える。
考えても見れは軍に関することなら、直接自分に来ることはないはず。
そう考えると命令を下した上司もぐるなのかと・・・考えてしまうのは当たり前だった。
なぜなら彼の上司は一国の首相で、目の前の男の身内なのだ。
確実に自分より、身内をひいきしているのは公認の事実である。
「で?惚気を聞かされるために俺を呼んだのか?」
「う〜ん、それもあるけど・・・もっと深刻な問題。」
「・・・?」
急に真面目になってキラは言う。
さっきとは違った態度にアスランは目だけで先を促す。
「あのね・・・シン君を早く引き取ってくれない?」
「はっ?」
予想もしてない一言にアスランの思考回路は止まる。
飲みかけのコーヒーを噴出さないだけ、昔よりは成長したな・・・とアスランは自分でも思う。
考えの斜め上を行く爆弾発言を平気でかますのは
平和の歌姫と呼ばれていた現在のプラント議長だけで十分だ。とも。
「まて。何でそこでシンの名前が出てくるんだ?」
突然、出てきた彼の恋人の名前。
この場に居たら不機嫌になる事は間違いないだろう。
ここは軍の施設内。
いつどこで聞かれててもおかしくない状況ではある。
「ん?だって、僕のレイがシン君に構いすぎなんだもん。
アスランがとっととちゃんとしてくれれば、そんなことはないでしょ?」
「・・・。」
なるほど。
そういうことかとアスランは頭の中で納得する。
「ようするに、レイがシンに構いすぎるからどうにかしてくれってことなんだな?」
「うん。さっすがアスラン。物分りがいいvv」
褒められてもあまり嬉しくはない。
コーヒーを一杯飲んでからソーサーに置くと小さなため息と同時に返事をする。
「無理だ。」
きっぱり。はっきりと。
もちろん答えに不満なのはキラである。
「どうしてさ?」
「何でもだ。」
再びきっぱり。はっきりと。
「・・・シン君をどうこうする事が出来ないから?」
「違う。」
勝手に出された結論にアスランは即座に反論する。
じゃあ、何さ。へたれが。とか言いたそうな目をしながらキラはアスランを見る。
「あのなぁ、シンとレイはアカデミー時代から仲がいいんだ。
それはミネルバ時代も続いてたし・・・俺だって嫉妬して・・・。」
「わかってるよ。レイから聞いたし。」
ぐだぐだと続くアスランの台詞を途中でさえぎってキラは言う。
すでに頭は机とくっついていた。
「でもさ・・・やっぱり寂しいんだよ・・・。」
「まぁ俺もミネルバ時代に感じてたこともあるから判らなくはないが・・・」
と、言いながらアスランはふとシンに言われたことを思い出す。
同じようにレイに嫉妬して。
たわいもない痴話げんかしたときに言われたこと。
「でも・・・。」
「でも?」
鸚鵡返しに聞くキラに一呼吸おいてから話を続ける。
「・・・俺とキラの関係と同じなんだから嫉妬するな。って事をシンに言われた。」
しばしの沈黙。
静かな空気が辺りを漂い始める。
きまずいような沈黙を破ったのは第三者の声だった。
「お話中すみません。
ヤマト隊長に召集がきております。」
涼しい顔で淡々と用件を述べるのは金色の長い髪とアイスブルーの瞳を持つ
黒い服の軍人だった。
「レイvv」
がばりと起き上がると満面の笑みを浮かべる。
そう。彼こそ、先ほどの話題に出てきたレイ本人である。
表向きはヤマト隊長の副官だが裏はヤマト隊長の大切な恋人である。
黒服なのもヤマト隊長の権限を酷使してであった。
「すぐに来てくださいとのことですが。」
「ん。了解したよvv君も一緒に来てくれるんだよね?」
ココアを一気に飲み干すと席を立ち上がる。
表情も声も先ほどとは全く違っていた。
「ご命令なら。」
「命令じゃなくて、僕が君と歩きたいんだよ☆」
ねっと、キラはレイを連れてその場を離れる。
その時レイの顔に浮かんだ表情にアスランは、しらずのうちに笑顔になる。
あんな表情は少なくともミネルバ内で見たことはなかった。
心配しなくてもキラを一番に思ってるよ・・・と言ってやりたいが自分が言った所でなんともならないであろう。
後輩兼元部下の嬉しい変化に笑みを深めつつコーヒーをもう一口飲もうとする。
「何にやにやしてんですか?」
コーヒーを飲もうとした手を止めて声の聞こえた方に振り向くと、
そこには赤い軍服を着崩して身にまとった少年が。
黒い寝癖の付いたような髪に印象的な赤い瞳。
「シン。」
先ほどの話題に出てきたもう一つの名前。
アスランの大切な人。
「ヤマト隊長との会話はおわったんでありますか?」
すたすたと近づくと断りもなく今までキラが居た席へと座る。
それに注意することもなくアスランは会話を続ける。
「ああ。それより、何か飲むか?」
「いえ。いいです。で、何の会話してたんですか?
オーブの准将のあんたが来て、内密な会話ってことは重要なことなんでしょ?」
こんなオープンな場所で話してるから違うかもしれませんが。と付け加えつつシンは聞く。
どうやら気になって仕方がないのだろう。
目線でちらちらと言葉を促している。
そのしぐさが可愛らしくてついつい冗談を混ぜつつ答えてしまう。
「たわいもないことさ。早くシンを嫁に貰えって釘を刺されたんだよ。」
「なっ・・・。」
あっさりと言い切ったアスランにシンの顔は徐々に赤みを増してくる。
「なんて会話してんだよ・・・あんたらは・・・。」
声も小さく顔も俯き加減になるが除いてる耳の赤さから、真っ赤になってることは一目瞭然である。
「それだけ・・・今は平和なのかもしれないな・・・。」
「・・・・・・。」
静かにつぶやきながらコーヒーを飲む。
「そうだ。シン。」
「な・・・なんでありますか!!」
ビックリしたように顔を上げて返事をする。
「この後、時間有るか?久しぶりに会ったんだ。ゆっくり話したいと思うんだが・・・。」
「べ・・・別にいいけすけど。
でも・・・あの・・・久しぶりなんだら・・・。」
だんだんシンの語尾が小さくなっていく。
そのまま口の中だけでもごもごと何かつぶやいたかと思うと、きっとアスランをにらみつける。
突然にらまれるのは今に始まったことではないが少々心臓に悪い。
「ど・・・どうしたんだ?」
シンの返事はない。
じーっとにらみつつ口の中だけでもごもご言うだけである。
「・・・けよ・・・。」
ポツリとつぶやいた台詞にアスランは「ん?」と聞き返すが、やっぱりシンからの返事はない。
「気づけって言ってんだ!!」
ガタリと席を立つとアスランのコーヒーを奪い取って飲み干す。
突然の行動にわけがわからなくなってアスランが戸惑ってるとシンはすたすたと歩き出してしまう。
「シ、シン!?」
急いでアスランも席を立つとシンの後を追いかける。
歩幅の違いか早さの違いか近くまで追いつくとシンの小さな-本当に小さな-声を拾う。
「二人っきりで・・・とかくらい言えないのかよ・・・。」
拾った台詞の嬉しさにアスランは暫くボー然としたが、笑顔になるとちゃっかりとシンの手を握る。
突然手を握られた方のシンは今まで赤みがかかってた顔をもっと赤くするとアスランをにらみつける。
が、シンの視線もどこ吹く風。
「二人っきりで。ゆっくり話そうな。」
にこにこにことシンの手を引きながら歩いていく。
アスランの台詞に自分の声を拾われたことに気づくが反論もせず黙ってシンは引きずられていく。
そんな一連の出来事は軍施設内のカフェテリアで行われたことで。
休憩のクルーもたくさん居たわけで。
・・・話題になるのは時間の問題だった。
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