ぽんと頭をたたかれる。
あの時の手は違う。
「刹那が好きだ。」
同じ声、同じ顔なのに、あの人とは違う。
あの時、ふと離れた瞬間現れた人。
探しに来てくれたのかと思ったほど、似ていて。
…そうだ。俺が欲しいのは「彼」じゃなくて「彼」なんだ。
◆your hand◆
経済特区日本は現在、初秋に入ったところだった。
まだ寒さもそんなないが暑いというほど夏の残りを残してはいなかった。
そのためか街中には人があふれている。
そんな人々の中、刹那とロックオンは歩いていた。
あまりの人込みに不満げな顔を隠そうとしない刹那をみながら苦笑しつつも
その足を止めたりすることはなかった。
「どこまで行くんだ?」
「ん〜、もう少し。」
少しだけとげを含んだ声に軽く返事をするとすたすたと歩き出す。
もとより身長も違うからリーチの差も大きい。
少しだけ油断したその瞬間彼の姿が視界から消えた。
立ち止まっていても仕方がないので、慣れない道を歩いてると目の前のカフェテラスには見覚えのある男。
茶色の髪にあの顔は間違えるはずもなくCBの仲間。
彼とは今さっきはぐれてしまったばっかりだったのだから、カフェでお茶をしているなんておかしい。
それに服装も違う。
高そうな高級スーツにコーヒー片手に、ノートパソコンに何かを打ち込んでいる。
そばの灰皿にはたくさんの煙草。
自分を見る視線に気がついたのか、刹那のほうを振り向くと「何?」と声をかけてくる。
多少イントネーションは違うがその声も同じ。
あまりのことに動けないでいると返事をしないのを不審に思ったのか彼はさらに言葉を続ける。
「俺の顔になんかついてるのか?」
その問いには刹那は首を横に振る。
「あ…あの、ごめんなさい。知り合いの人に似ていて…。」
どう対応していいかわからずとりあえず擬似人格で答えると男は「そうか。」とだけ返事をする。
「本当にすみませんでした。」
「別にいーさ。」
それだけ言うと男は再びノートパソコンと向かい合う。
なんとか誤魔化せたととりあえずはその場を離れようとするが、それに気づいた男に手招きされる。
一応近づかないわけにはいかず警戒しながら彼に近づくと、頭にのせられる男の手。
それは、この男そっくりの彼がいつもする事。
さすがに初対面の人間の手をいつものように振り払うわけにはいかずに刹那は困惑する。
「もしかして、誰かとはぐれたのか?知り合いが俺に似てるから間違えたんだろ?」
刹那はその台詞に一瞬馬鹿にされたかとおもったが、男の口調は全く馬鹿にしてなかった。
自分を見る目も子ども扱いではなくちゃんと一人の人間として。
からかうでもなく不安そうに思ってる人物をはげますように同目線で会話をしてきた。
「えっ、あの…。」
刹那が返事に困ると男はぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜた後、ポケットから飴玉を取り出す。
「さっきもらったんだ。やるよ。
もう遅いし子供がふらふらしてると危ないぜ。
ちゃんと保護者に迎えに来てもらうんだぞ。」
最後のからかいの台詞。
その顔がにやついてたから今度は子供扱いにされてんだと刹那にもわかった。
少しだけむっとすると、その表情を見た男はもっと笑い出す。
「悪い悪い。
でも、ま、本当に気をつけろよ。」
また頭に手を置いてぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜる。
それがなぜか暖かくて。
「彼」と同じ行動なのに。
そこから再び歩いていると、やっと姿を現した保護者。
「お前はどこに行ってたんだ。」
おいてったのはあんただろうがと言葉を飲み込みこむ。
はぐれたのは自分自身にも原因があったわけだから。
「本当、心配したんだぞ。」
ポンと頭の上に軽く手をのせられ、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられる。
それはさっきの男にもされた行為。
だけど違う。
なにかがわからないけど、違っていた。
「また…会いたい。」
ポツリとつぶやいた台詞は風に消えた。
望みどおり、再び再会することを誰が予想できただろうか…。
-END-
〜後書きという名の反省部屋〜
ライ刹というかライル+刹那風味ですが、初ライ刹と言い切る。
うまく表現できなかったんだけど「兄として距離を詰めた兄」と「同視線で距離をつめた弟」の違いが出てるといいな。
結局、ライルも最後は子ども扱い気味だけど(笑)
この後の出会い(二期)に続くかは不明ww
ちなみに、この話でニールが刹那に対して子ども扱いなのは
「ライ刹だから、刹那のことを純粋に弟としてみてる。」
と
「兄として距離を縮めていこうとして、回り道をしすぎた。」
って、二つの案があったんだけど後者を選びました。
元となったダイアリーに書いたメモでニールさん告白してるしね。
後、さりげに「欲しいものは即効で奪う弟」と「慎重に手に入れる」っていう兄弟の比較を出したかったからかもしれない。
だから弟に奪われちゃうんだよ。
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