「俺、刹那のことが好きだ。」
◆告白◆
さりげなく突然された告白。
急な出来事に頭の中が一瞬で真っ白になり、すべての行動がフリーズする。
それでも何とか動くだろう頭をゆっくりと台詞をはいた犯人へと向ける。
その犯人は茶色の癖毛に手をつっこみ、ぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「あ〜悪いな。」
口調は明るいが、その碧の目は真剣そのものだった。
まったく微動たりともしない刹那に業を煮やしたのか、
かき混ぜてた手を今度は刹那の頭に持ってきて同じようにかき回す。
「…深く考えないでくれ。」
なっと、最後にポスっと頭をたたかれて話を完結させようとする。
そのまま犯人が目の前から姿を消すまで刹那はフリーズしたまんまだった。
とっさに答えれなかったのは驚いたから。
そして、気持ちに気づかなかったから…
ぴぴぴ。
規則正しく鳴るアラームでゆっくりと意識が覚醒する。
大きい琥珀色の目を数回まばたきさせると、
手探りだけで音の原因を探し当てるとアラームを止める。
ゆっくり起き上がると手に取った端末をのぞきこむ。
時間的には少し早めだが、起床には十分な時間だった。
軽くシャワーを浴びて着替えたらちょうど朝飯の時間で
毎度のごとく訪れる訪問者が尋ねてくる時間でもあった。
最初はうっとおしいと思っていた刹那も、次第にあきらめたのか慣れたのか文句を言わなくなってきた。
もしかしたら正確な時間代わりにしているのかもしれない。
だが、今日は来なかった。
すでに時間は過ぎている。
「急なミッションでも入ったのか?」
寂しそうにポツリと無意識につぶやいた自分に首を振ると、
待っていてもお腹は膨らまないので食堂に向かう。
扉を開けて中に入ると、そこにいたのは同じマイスターの一人であるアレルヤがいた。
前髪の片側が長い黒髪と鋭いながらも穏やかな瞳をもつ優しい人物だった。
「ああ、おはよう。刹那。」
こくんとうなずくことで返事をする。
それに嫌な顔をする事もなく、声をかけてきたアレルヤは言葉を続ける。
「よかった。遅かったから迎えにいこうと思っていたんだ。
ほら、世話を任されてるしね。」
にっこり笑って言うアレルヤに刹那の動きが一瞬止まる。
無表情でう感情が動かない顔には、誰が見ても困惑の表情が薄っすら浮かんでいた。
「それは…。」
一体?と問いかける前に、「おはよう」と自分の後ろから声が重なる。
「ああ、おはようございます。ロックオン。」
くるりと後ろを振り向くとそこには茶色の長めの髪と綺麗な緑の瞳を持つロックオンの姿。
自分より背が高いため、どうしても見上げる形で見ることになってしまうのは
刹那の軽いコンプレックスである。
そんな刹那の存在に気づいたのかロックオンは短く「はよ。」と言って
刹那の頭をぽんぽんとたたいて、一人で歩いていってしまう。
いつものなら自分に意味無くくっついて、一緒に引張っていくのに。
まるで他人扱いのようにされ入口に取り残された形になった刹那はじっと彼の背中を見送る。
なかなか動かない刹那をおかしく思ったのか、アレルヤはもう一度声をかける。
「ご飯食べないの?ここにきて一緒に食べよ。」
突っ立ていても変わらないので、こくんと軽くうなづくとトレイに食事を載せてアレルヤのいるテーブルへと向かう。
向かい合わせに座ると食事に手をつける前に、アレルヤの方を見る。
「………。」
まったく食事に手をつけない刹那に、食後のコーヒー片手にアレルヤは首をかしげる。
「どうしたの?具合でも悪い?」
心配してくれる台詞に刹那は首を横に振ることだけで答える。
ただ。
気になっていた。
ロックオンの態度にアレルヤの台詞。
なんとなく察しはつく。
たぶんに、ロックオンはアレルヤに自分のことを頼んだんだろう。
あんな事があって…そばには居づらくなったのかもしれない。
態度が普通なのは距離をとるため。
静かになっってうれしいのに
心に浮かぶのは虚しい気持ちだけ。
ここ数日の刹那の記憶はあいまいだった。
いつも以上に無言でエクシアにかまいっきりになっていた。
覚えているのは「彼」との遭遇率が低くなったことと
「彼」の声を毎日聞いていないということと
「彼」のぬくもりを感じていないということ…。
次に目を開けたときは、自分の部屋の天井が見えた。
なぜ?ここに?
確か自分はエクシアの整備をしていて…。
「目が覚めたか?」
聞こえてきた声に視線だけを向けると、そこにはロックオンの姿。
「な…んで?」
その一言だけで聞きたいこと全てがわかってしまったらしい彼はゆっくりと説明を始める。
「おまえさんはエクシアの整備中に、コックピットから落っこちたんだ。
んで軽い貧血みたいなもんを起こしただけだろうからって自室に運ばれたわけ。」
説明しながら備え付けの簡易冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと刹那の元へと運んでくる。
喉も渇いてたので刹那はゆっくりと起き上がるとそれを受け取って飲み干す。
冷たい水は体を潤すと同時に頭を一瞬ですっきりとさせた。
「そうか。ロックオンがここまで運んでくれたのか?」
「ああ、たまたまそばにいたからな。」
「…どうしてだ?」
刹那の一言にロックオンは不思議そうに首をかしげる。
「俺の世話はアレルヤがしてくれるんだろ?
運んでくれたことには感謝するが、俺の様子を見に来ることはしなくてもいいはずだが?」
なぜ、世話を任されたアレルヤがいない?と言外に含めながら言うとロックオンはその端麗な顔を少しだけ悲しそうにゆがませる。
刹那はなぜ彼がそんな表情をするのかわからなかった。
それはあの時、返事をしない自分を見てあらわした表情と同じだった。
「あ…なんていうか。」
視線をあさっての方向にそらしながらしどろもどろに答えるロックオンに対して刹那は無言のまま見つめる。
その琥珀色の目はしっかり話せと言葉の代わりに語っていた。
「告白してさ。なんとなく顔も合わせずらくて、アレルヤに刹那の様子を見てくれって頼んだんだけどさ。
なんていうか俺が限界だった。」
そっとベットの端に座って刹那の手を握る。
「そばにいてくれないと落ち着かなくなってった。」
握った手をそのまま自分の額につけると目を閉じて言葉を続ける。
「理屈もなしに刹那のそばに居たかったみたいだ。」
情けないよな。大の大人が。
そうつぶやきながら苦笑するロックオンのほほに、握られていないもう片方の手をそっと触れさせる。
刹那のいきなりの行動にロックオンの目は驚きに見開く。
「俺はお前の告白に答えることはできない。」
「だから、その話は…。」
もうういいんだとロックオンは続けようとするが、刹那は止まらず話を続ける。
「だけど、お前が隣にいないことで俺は寂しかった。
それではだめか?」
それは彼も自分のそばに居たかったという事実。
「好き」と返事を返されるよりも、もっと重みのある返事。
「いや、だめじゃない。」
握った手はそのままにロックオンは刹那を抱きしめる。
久しぶりの相手のぬくもり。
それは心を満たしていく暖かさ。
「腹減ったろ?飯食いに行くか?」
名残惜しそうに刹那から離れるとロックオンは扉の方へと向かう。
離れたぬくもりに少し寂しくなりながらも刹那はベッドから降りると彼の元へと歩いていく。
「じゃ、行くか。」
一緒にご飯を食べに行くのはいつものこと。
今まで普通にあった日常のこと。
だけど、今までと違うのはぎゅっと握られた手から感じる相手のぬくもり。
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