会議は順調に終わった。
「一杯どうですか?」
全員が達成感にみまわれる中、若い社長にに一人の男が声をかける。
「いえ、婚約者がおりますので。」
だがロックオンはやんわりととげがないように断る。
内心、もう一緒に居たくないという本音は隠して。
「そういえばそんな噂話がありましたな。
話は知っていても、誰も姿を見たことのないという深層の姫君のお顔を見てみたい。
と、みな申しておりますよ。」
言外に嘘ではないかという疑いを隠しながら。
それはそうだろう。
彼はまだ独身。
自分の娘や、有力者の娘を紹介し妻の立場にたたせれば自らの立場も高くなるというもの。
婚約者がいるとは言うが、誰も姿を見たことがないのでタダの虫除けという噂の方が社内では強い。
「なにぶん、病弱でして。
人にお見せするほどのものではないんです。」
ましてや男で年下の子供。
紹介などしたら上へ下へのパニックである。







それに…相手に承諾されていない強引な約束だから。








「あれ、早かったんですね。いつもならもっと捕まって帰ってこないのに」
いつもより早い帰宅の上司にアレルヤは不思議そうに声をかける。
「婚約者がいて早く帰らないといけないといったら、開放してくれたさ。」
「そうですか。
まさか、そういう事のためだけに婚約者として扱っているのでは?」
アレルヤの意見も会社内の噂と同じらしい。
「さぁな。」
その問いには遠い目をして答える。
何を考えているのかわからない表情。
逆を言えば、自分の心理を悟らせない為の表情。
アレルヤは軽くため息をつく。

「本当に何を考えているんですか…。」