「旦那様はまた問題あるのを拾ってきて。」
「しかも婚約者にするって話よ。どこの馬の骨かわからないのを冗談ではない。」
「あんな骨と皮だけのような子供に何の魅力があるんですか。」


侍女たちのうわさはとどまることを知らない。
たとえ誰が聞いているか判らない屋敷の廊下でも平気で話す。

偶然通りかかり耳に入った刹那だが、それもいつものことと何食わぬ顔ですたすたと廊下を歩き出す。

いろいろと聞きたいのは逆にこっちである。

なぜ?
自分を拾った。

スタスタ歩いて目的の部屋までたどり着く。
奥のほうに守られるようにひっそりとある一室。
大きな扉を開けてはいると、そこは豪華ながらも落ち着きを持った部屋だった。


扉を開けた瞬間に振りそそいだ日の光に一瞬顔をゆがめた刹那は、まようことなくその空間へと入っていく。

備え付けの大きな窓からは庭のガーデニングが一覧でき、家具はモノトーンでの統一。
入ってすぐにあるは大きな机に簡易ソファと、立派な本棚の数々。
机に見合った立派ないすには、そこにいるはずの主は今は居ない。

それらを無視し、刹那は一直線に部屋の置くの扉へと行く。
入り口と似ているが少しだけ質素なドア。

空けた先の部屋は、彼が初めて目を覚ました場所でもあった…。




















あの後、無言のまま担ぎ上げられ気がついたら豪華な一室にいた。
最初に目に飛び込んできたのは綺麗な白い壁。
視線を横に動かすとモノトーンで落ち着いたカフェテーブルに椅子。

ここがどこだろうと思いながら寝かされているベットから起き上がる。
起き上がったときにこすれたシーツはさらさらしていて気持ちがいい。
ふと、自分の姿をみてみると体も綺麗に清められ衣服も新しいものに変わっていた。
なれない着心地と居場所に一人困惑していると、男がゆっくりと入ってきた。

やわらかそうで少しウェーブの癖を持つ茶色の髪をした背の高い美丈夫。
穏やかそうな空気とは裏腹に
綺麗なエメラルドの瞳は冷たい光を宿していて、それが無言の威圧を与える。


「…。」


お互い何も言わない。
否、聞きたい事がたくさんあったのだが口から声が出なかった。
頑張って勇気を出して伝えようとするより先に、男のほうが声を発する。

「お前は俺が拾った。よって所有権は俺にある。
命と穏やかな生活が欲しければ逆らうな。」

男の口から発せられるはそれは甘く危険な口説き文句。


なぜか、逆らうすべは少年には無かった。


「名は?」

「ソラン・イブラヒム。」

男の問いに簡単に答えると、男は顔を怪訝そうにゆがめる。
名前を聞かれたから答えただけなのに、
そこまで嫌そうな顔をされるとは何事だとソランは憤慨しそうになったがぐっと耐える。

しばしの沈黙の後、男ははっきりといった。

「お前は「刹那」だ。」

まるでソランの答えを聞いてなかったように言い放つ。

「そして、俺のことは「ロックオン」と呼べ。」




宣言され所有物となってしまった自分に逆らうことはできず、今日からソランは刹那となった。