ある冬の日。
クリスマスということもあって、街はイルミネーションで飾られていた。
少し大きな通りを往来する人々は急ぎ足で家路を急ぐ。
そんな人たちの中、ニールとライルは目的も無く歩いていた。
「これで雪が降ったらホワイトクリスマスだな。」
空を見上げていうニールにライルは即座に返事をする。
「寒くて嫌だ。」
茶色の髪と翡翠の目、白い肌を持ち長身でほどよい体格の男二人は容姿がそっくりなことがあって目立つのか
すれ違う女の子たちが目で追っているが本人達はまったくの無視であった。
「お、アニュー!」
遠くのほうに知人の女性の姿を見つけてライルは大声を上げる。
女性のほうもそれに気づき軽く手を振ると二人を待った。
「こんにちわ。ニールさん、ライル。」
藤色のさらさらな長い髪をゆっくり揺らしながら女性は挨拶をする。
赤い瞳が強気な印象をもたせるが、おっとりとした雰囲気の女性だった。
「二人はお出かけですか?」
「いや、特に目的も無くぶらぶらしてるだけだよ。」
アニューの問いにニールが答えていると、ちゃっかりライルはアニューの隣に移動する。
「そうそう。んで、よかったら付き合って。」
肩に手を回して引き寄せるとアニューは抵抗も無くライルの懐に落ち着く。
「でも、お二人の邪魔にならないかしら…。」
「いや。この場合、邪魔なのは俺のほうだよ。」
ニールはにっこり笑うとちらりとライルを見る。
ライルの方も視線だけでその通りと答えていた。
「それに、俺もそろそろ一人で行きたいところもあるし。
ライルをよろしく頼むよ。」
「あっ、は…はい。」
ぺこりとお辞儀をすると半ばライルに引っ張られる形でアニューは姿を消す。
そんな二人の姿をほほえましく見つめ、自分も別の方向へと歩き出す。
「コーヒーでも飲むかな…。」



「ごめんね。刹那。またせてしまって。」
「いや。問題ない。それより、もう大丈夫なのかフェルト?」
フェルトと呼ばれた女の子はこくんと首を縦に振る。
ピンクの髪に、大人とも少女ともいえない可愛らしい女の子だった。
「そっか。じゃあ、いくか。」
それだけ言うと刹那と呼ばれた少年はゆっくり歩き出す。
もちろん彼女のペースにあわせてである。
黒くはねたような癖毛の髪に琥珀の瞳。
青年と少年の中間な姿は、フェルトと二人で歩いていると兄弟にも恋人にも見えた。
「今日は、ありがとう。付き合ってもらって。」
「大丈夫だ。俺も楽しめたから。目的の物が買えてよかったな。」
「うん。刹那のおかげだよ。」
にっこりとフェルトは笑って御礼を言う。
二人歩いていると目の前にオープンしたばかりらしいコーヒーショップが見えた。
オープンセールなのか人がたくさん並んでいる。
「こんなところに出来たんだ。」
「みたいだな。飲むか?」
「えっ。」
刹那の問いにフェルトはびっくりして答える。
確かに新しいお店なら少々気にはなるが、だからといってあの人込みに突入する気にはなれなかった。
「でも、混んでるし。」
「俺が買ってくるから問題ない。フェルトはまってろ。」
「せつ…。」
フェルトが名前を呼び終わる前に刹那はとっとと人込みに突入してしまっていた。
一人残された形になってしまったが、せっかくの好意を無駄には出来ず刹那が戻ってくるのを待つことにした。
「あれ?フェルトじゃないか?」
名前を呼ばれて振り向くと、そこには先ほど弟と別れたニールがたっていた。
「ニール?」
「珍しいな。こんなところで会うなんて?誰か待ってるのか?」
「刹那が…。」
それだけ言うと店の中に視線を向ける。
「ああ、なるほど。あいつも気遣いを身につけれるようになったか。
でも女の子一人残して行くってのは減点だな。」
はは、とニールは笑うとフェルトもくすくすと笑い出す。
そんな時携帯電話のメロディが軽やかに流れ出した。
「あ、私だ。ちょっと失礼します。」
一言断るとフェルトは携帯電話を耳に当てながら少し距離をとる。
会話の内容はわからないが返事からして「帰って来い」的な部類であろう。
相手もなかなか折れないのかフェルトの声がだんだん困惑してきていた。
やっとのことで通話を終えると軽くため息をつく。
「どうした?」
「呼び出されちゃった。でも、刹那がまだ戻ってこないのに…すぐにこいって。」
ちらりとコーヒーショップを見るがまだ刹那の姿は無い。
「だったら俺が代わりにここにいて伝言を承るぜ。」
「でも。」
申し訳ない表情をするフェルトの頭をぽんぽんと軽くたたく。
「大丈夫。俺、今暇だからさ。」
手は頭にのせたままにっと笑って言えばフェルトもおずおずとこくんと首を縦に振る。
「ありがとう。ニール。刹那にも伝えといてください。」
ぺこりとお辞儀をしてフェルトは小走りで駅のほうへと向かって行く。
その姿が見えなくなると同時に刹那が人込みからひょっこりと現れた。
「ニール?」
フェルトがいたと思われる場所に居るのは、全く予想外の人物で。
コーヒーを片手に一つずつもったまま刹那は一瞬動きを止める。
「よ。フェルトから伝言。呼び出されちゃったから行くってさ。
迷ってたし謝ってたから許してやれよ。」
「いや、大丈夫だ。フェルトから途中で呼び出される可能性がある事は事前に聞いていた。
それがこのタイミングだっただけの事だ。」
「そなの。」
「ああ。」
刹那はこくりとうなずく。
「でも、お前はなんでこんなところに?」
「うん?お散歩かな。まさか、刹那に会えるとは思ってなかったけど。」
くすくすっと楽しそうに笑いながらニールは言う。
「俺も、まさかお前に会えるとは思ってなかった。
ああ、そうだ。ニール…メリー…。」
「せーつーな。」
台詞の終わりにかぶせるように自分の名前を呼ぶ声が響く。
同時にのしかかる重み。
「ライル…重い。」
「まぁ、いいじゃん。おっ、いーもん持ってるな。一つくれ。」
ライルは刹那から離れるとひょいと刹那からコーヒーを一個奪う。
「おまえなぁ。」
呆れた声に振り向くと、そこには数時間前に別れた兄の姿が。
「あれ?兄さん。なんでいんの?」
「それはこっちの台詞だ。アニュー嬢はどうしたんだ?」
「ああ、なんか集まりがあるからって呼び出されて途中で別れた。」
コーヒーを一口飲みながらあっさりとライルは答える。
「そういえば、さっき言いかけた事ってなんだ?刹那。」
暖かい〜と一人悦に浸ってる弟を無視してニールは刹那に問いかける。
それまで双子を見守っていた刹那は、ふわりと笑って二人に向かって言う。










「メリークリスマス。」