トレミーの自室。
いつものように教官に怒鳴られつつ訓練を終えたライルを待っていたのは紫色の髪と赤い目を持つ女性だった。
「アニュー。なんでここに?」
驚いて声を掛けるとライルの存在に気付いてにっこりと笑いながらアニューは返事を返す。
「あら、私があなたの部屋にお邪魔するのはおかしいかしら?」
「いや、全然。」
アニューの返事に否定の言葉を即座に返す。
急いでドアロックを解除するとアニューと共に部屋に入る。
「んで、何の用?夜這いなら大歓迎なんだけど。」
「違うわよ。あなたじゃないし。」
さり気に酷い事をいってアニューはライルの軽口に答える。
「あの今日が誕生日って知ったから…これをあなたにって思って。」
そう言うと可愛らしくラッピングされた小箱を取り出す。
「どうしても今日中に渡したくて。ハッピーバースディ。ライル」
はい。とアニューから小箱を受け取ったらライルはしばし呆然としてたが意識を取り戻すと嬉しそうに笑う。
「Thank you!そっか、誕生日なんて忘れてたぜ。」
「ライルったら。」
くすくすとアニューは笑う。
「お返し楽しみにしてろよ。そいや、アニューの誕生日って…」
そこまで言ってライルはしまったという顔をする。
過去の記憶がないアニュー。
もちろん誕生日だってきっと例外ではない。
「悪ぃ…。」
「ううん。その気持ちだけでも嬉しいわ。」
「アニュー…。」
ぎゅっとライルはアニューを抱き締める。
自分の首に回された手をそっと掴むとアニューはニッコリ笑う。
「じゃあ…私の誕生日はライルが決めて。」
「…ああ。」
えーと何月がいいかなぁーとライルは楽しそうに考える。





決めた月は二人だけの秘密。











くいっと裾を引っ張られ、顔だけを振り向かせば見知ったピンク髪の女の子。
「どうしんたんだ?フェルト?」
くるりと体ごと向き直り真正面に立つ。
だが彼女からの返事はない。
黙っているだけなのだが口が何か言いたそうに動いているから、自分に何か言いたい事があるということはすぐにわかった。
彼女から話してくれるのを待つのもいつものこと。
「あのね…ロックオン。」
「ん?」
おずおずとフェルトはオレンジ色の物体をを取り出す。
それは先ほどまで姿を見せなかった自分の相棒だった。
なぜか緑色のリボンで包まれている。
「これ、プレゼント。」
「えっ?」
プレゼントと言われてもハロは自分の相棒である。
が、ハロ自身も「ハロプレゼント。プレゼント。」となぜか楽しそうだった。
「あ…ああ。ありがとう。」
少しだけ困ったりもしたが素直にお礼を言って受け取る。
「…あ…あの。」
受け取った後、フェルトはポツリとおめでとう…と小さく言うと反対側へといってしまった。
追いかけようとするが直ぐにその姿は見えなくなってしまっていた。
「???」
なんだか判らない行動にロックオンは頭の中で疑問符を大量に浮かべる。
困ったようにハロと目をあわす。
「お前はなんか知ってるのか?」
「プレゼント。プレゼント。」
「ああ、プレゼントな。」
同じ台詞を繰り返すハロを抱え、部屋へ戻ると緑色のリボンをほどく。
するとハロは自分の口を大きく開けた。
なかに入ってたのは緑色の小さな小箱。
「なんだ?これ?」
「プレゼント。プレゼント。フェルトカラ。」
「フェルトからのプレゼント?」
小箱をハロから取り出すと手の中に収める。
「ハロモエランダ。フェルトトイッショ。オソロイ。オソロイ。」
「ああ、フェルトとお揃いなんだな。
でも…なんで。」
ん〜と考えて、何かあったっけ?とカレンダーに目をやって納得する。
プレゼントの意味とおめでとうという言葉の意味。
「直接…渡してくれよな。」
そしたらありがとうって言って抱きしめるのに。











祝ってくれる声。
優しい仲間。




でも、寂しくて埋まらないのは彼が隣に居ないから。
生まれた時からずっと一緒の存在。




そして…誰よりも大切な人。




きっと…今は別の場所で同じように祝われているだろう。




もう二人とも大人だから酒を酌み交わして「おめでとう。」と言い交わしたい。
そうしたら…幼い頃のように一緒に眠ろう。
目が覚めて「今日から新しい一年だね。」とお互い笑いあおう。








そうなれる事を祈って目を閉じる。







「ここに居たのか。」
ドアが開いて入ってきたのは黒髪に琥珀の目を持つ人物だった。
おそらく、消えてしまった自分を探しにきたのだろう。
祝われている中心の自分が居なくなってしまったから。
「悪いな。」
「いや。問題ない。」
そろそろ戻らなければならない。
探しにきたということは、主役が消えてずいぶんたってしまっているからだろう。
だが、その人物は微動たりもせずゆっくりと自分を見ると言葉を続ける。
「あんたの想いは届いてる。」
何が?とは聞かない。
「ああ、ありがとな。」
だからお礼を言って、パーティの会場まで戻る。








いつかきっと…。な。











「んだ?これ?」
部屋に帰ってきたライルを待ち受けていたのはたくさんの料理と大きなケーキだった。
ご丁寧に自分の大好物ばかり。
止めとばかりに自分の席には意味ありげな箱。
「忘れたのか?今日、俺らの誕生日だぜ。」
台所からワインをを持ってきた兄は嬉しそうに言う。
そのラベルにかかれているのは自分達の生まれた年。
その言葉にライルは記憶を引っ張り出す。
最近、忙しくて日にち感覚が曖昧になっていた記憶を整理すると、確かに今日は自分達の誕生日。
もちろんまったく覚えがなかったわけではないが、仕事の忙しさで頭の片隅に置かれたまんまだった。
「(ヤベ…忘れてた…)あの…悪ぃ俺…。」
そんなライルの心理などまるで読み通しとばかりに言葉を遮って兄は楽しそうに言う。
「仕事が忙しかったもんなお前。
だから俺も言わなかったんだから、気にするな。」
「でも…。」
情けないやらで次の言葉が出てこなかった。
いくら仕事に集中してたとはいえ周りのことを見てなかったなんて。
自分の事で精一杯で他に余裕がなくなってたなんて。
うつむいて考え込んでしまったライルに兄はそっと近づくと、その耳元でポソポソと話す。
「なっ、」
その言葉に一気に顔を真っ赤に染める。
思いっきり顔を上にあげて兄を見ればそれはそれは無邪気で嬉しそうな笑顔。
「で…でも。」
しどろもどろするライルに兄ははっきりと言い切る。
「俺はそれがいいな。」
それは有無を言わない強引さで、これに逆らえたためしはない。
だから…ついこくんとうなずいてしまう。
逆らえないなら逆らわないほうがいい。
昔からの経験とそれが嫌ではないから。







一緒に過ごす二人っきりのバースディ。










「クルーからだ。受け取れ。」
そう言って渡されたプレゼント。
突然の事に、部屋に戻ってたライルは入り口で固まる。

ここ…俺の部屋だよな。
てかなんで刹那が居るんだ。
受け取れって…プレゼントなんてなぜ??

と、大量の疑問が頭の中に浮かんだがどれも言葉にはならなかった。
ただ「ああ。うん。」と簡単な返事を返すのに精一杯である。

返事を肯定とみたのか、刹那は立ち尽くすライルにプレゼントを渡すと部屋を出て行ってしまう。
受け取ったライルはしばらく呆然としてたが、われに返ると早速プレゼントの箱を開ける。
中から出てきたのはいろいろな品物。
その中に書かれた「ハッピーバースディ」の文字に、ようやく今日が自分の誕生日なんだと思い出す。
「ああ、そういえばそうだった。」
ポンと手をたたき頭の中で納得すると、今度はうきうきと中身を並べていく。
自分の為に選んでくれたもの、ネタなもの、どう考えても渡した本人の趣味なものまで。

その中に入ってたのはシンプルな一通のメッセージカード。
書いてある文はたった二行。






ハッピーバースディの文字と、指のサイズ。






「なんだ?」
不思議そうにカードを見つめると、よくよく見ると下のほうにもう一つ文が書いてあった。






『指輪はガンダニウム合金以外は認めない。』






…意味を理解したとたん赤くなる顔。
名前はないけど誰からなんて一目瞭然。
「反則だろ。それ。」






刹那の誕生日が一ヵ月後と聞いて、財布と相談するのは後日談。









…なんで用意したんだろう?
俺には関係ないのに。



手元にあるプレゼントの箱。



思い出されるは楽しそうなクルーの声。
嬉しそうなあいつの笑顔。
楽しそうな笑い声。



まだ祝いの席は続いているだろう。
隣のベットの人物が帰ってくることはなかった。



ボスっと布団を頭から被る。
皆からいろんなの物を頂いてた彼。
自分なんかからもらっても、嬉しくないだろう。









俺にその資格はないんだから。









暫くしてるとドアの開く音と廊下の光が室内に入り込んでくる。
「なんだぁ、刹那は寝ちゃったのか?」
アルコールでも入ってるのか楽しそうな声と、何かが机の上にドサリと置かれる音。
多分もらっていたプレゼント類だろう。
「せっちゃーん。おやすみですかー。」
ゆさゆさと布団に包まってる刹那を前後に転がす。
あまりの行動に「うるさい!」と、おもわず布団を跳ね上げて起き上がる。
「あ、やっぱりおきてた。」
「お前が起こすからだろう。」
うそ。
最初から寝てなんて居ない。
きっとばれてるけど。
「そっか。悪いな。」
それでもだまされてくれる。
むすっとしてにらんでいると、ふとニールの視線が刹那の背後に注がれる。
そこにはさっきまで手の中でもてあそんでた箱。
ヤバイと刹那がおもった時はすでに遅し。
すばやい動きで箱は簡単にニールの手の中に納まった。
「プレゼント?こんなところに…って事は刹那からの?」
ばれてしまっては仕方ないのでこくんと首を縦に振る。
「…あんだけ貰ってるんだ。俺から貰っても…。」
下を向いたままポツリポツリとつぶやいていると突然視界が緑に染まる。
それはニールの服の色。
全身にかかってくる暖かい体温と力強い体。
抱きしめられているとすぐに判った。
「ニール…?」
「凄く嬉しい。刹那からだろう。
おれ、もうプレゼントこれだけでいいや。
これだけあれば他のなんていらね。」
心底嬉しそうにいうニールに刹那のほうが顔をしかめる。
先ほどまでは一纏めにされたくないとおもってたのだが、逆に特別扱いされても他の人のプレゼントに申し訳がない。
「だが、他のクルーのだって…。」
「ああ。判ってる。俺のために選んでくれて渡してくれたって事。
でも…。」
そういって体を少し離すと刹那の両頬を優しく包む。
目と目をあわせたままニールは静かに言う。
「俺は…刹那の気持ちだけ受け取りたいから。」
真剣な目と声。
嘘偽りのない言葉。
「ニール…おめでとう…。」
「ありがとな。刹那。」
そっと落とされた口付けは受け取りましたという証拠。